アーカイブ · 2026年 · 2026年10月

2026-10-23 のダイジェスト

2026-10-23

本日はサイエンス6件。経口STING阻害剤、BRD4リスクを取り除いたTLR7/8拮抗薬、マウスで機能させるBRD9 PROTAC、溶媒込みのリガンド歪み計算、抗微小管ピロロキノリン、グリオーマ向けBCL9/β-カテニン阻害剤。業界ニュースはLilly–Metisの脂質ナノ粒子提携とIsomorphic Labsの評価額報道の2件です。

⚗️

メドケム

4件

BRD9 PROTACがマウスで効きにくい理由と、E3のヒト化による解決策

  • dBRD9やVZ185など広く使われるCRBN系・VHL系のBRD9分解薬は、BRD9自体の配列が高度に保存されているにもかかわらず、マウス細胞では活性が大きく低下する。
  • 原因はE3リガーゼの種差、特にCrbnのI391残基とVHLの構造差にあり、三者複合体の形成を妨げていると考えられる。
  • ヒトCRBNまたはVHLの発現、あるいはCrbnI391V変異の導入で、マウス細胞での活性が回復し、生体内のBRD9分解も向上した。
💡 ポイント

ヒト細胞株では見事に効くPROTACが、マウスの薬効試験では効かない。そんな経験のある人にはなじみのある話だ。げっ歯類での分解薬のPK/PDは、化合物ではなくE3の違いで失敗しうるので、CrbnI391Vやヒト化E3のモデルは早めに用意する価値がある。生体内で陰性でも、種をまたいだ三者複合体形成を調べるまでは、そのシリーズを打ち切るべきではない。

Improving PROTAC-Mediated Degradation in Mouse Models: BRD9 as a Case Study ↗

ピロロキノリン系の抗微小管薬、パクリタキセル・ダウノルビシン耐性細胞でも活性を維持

  • 1H-ピロロ[3,2-c]キノリンのライブラリを合成してSARを整理し、ナノモルレベルの低い濃度で増殖を抑え、正常線維芽細胞に対する選択性が非常に高い化合物を得た。
  • 最良の誘導体は、ダウノルビシン耐性株やパクリタキセル耐性株でも活性を保ち、排出比も低く、交差耐性が限定的であることを示唆した。
  • リード化合物は吸収が速く、半減期は中程度で、脳移行性は限定的だったが、ゼブラフィッシュ胚への毒性は治療域の狭さを示した。
💡 ポイント

P-gp排出を回避する微小管作動薬はいつでも関心を集めるし、排出比の低さと耐性株での活性維持は最初のフィルターとして妥当だ。ゼブラフィッシュの結果は正直な落とし穴で、強力な抗有糸分裂薬は安全域が狭いことが多く、培養細胞で線維芽細胞に選択的でも安全性の答えにはならない。次は結合部位と、この骨格をどこまで治療域の広い方向に調整できるかを見たい。

Design, Synthesis, and Biological Evaluation of 1H-Pyrrolo[3,2-c]quinolines as Potent and Selective Antitubulin Agents Active against Drug-Resistant Cell Lines ↗

パルミトイル化を阻害する経口STING阻害剤、炎症モデルで効果

  • 研究チームは、インターフェロン異常症や自己免疫疾患に関わる自然免疫アダプターSTINGの阻害剤として、テトラヒドロピラゾロ[1,5-a]ピラジン骨格のシリーズを構築した。
  • リード化合物37は、細胞での強いSTING阻害に加え、良好な経口曝露と安全性を示した。
  • 作用機序はSTINGのパルミトイル化の阻止で、下流シグナルの活性化を抑える。
  • 経口投与により、化学物質誘発の急性モデルやTrex1欠損マウスなどで炎症が軽減した。
💡 ポイント

STING阻害剤はこれまでツール化合物か共有結合性のものが中心だったので、パルミトイル化を止める経口投与可能なケモタイプは、標的への別のアプローチになる。実際にCys91ポケットに結合するのか、もっと上流で働くのかが気になる。他のパルミトイル化タンパク質への選択性がそこで決まるからだ。自己免疫疾患への適用では、Trex1欠損マウスの結果が説得力を持つ。

Discovery of Novel Orally Bioavailable STING Inhibitors with 4,5,6,7-Tetrahydropyrazolo[1,5-a]pyrazine Moiety for STING-Mediated Inflammatory Disorders ↗

ループス向けTLR7/8デュアル拮抗薬からBRD4リスクを設計で排除

  • 2-(ピリジン-2(1H)-オン)インドールの構造ベース最適化により、従来シリーズより膜透過性が高く、イオンチャネル活性と分布容積が小さいTLR7/8デュアル拮抗薬が得られた。
  • 初期のピリドンリードは予想外に免疫細胞の増殖を抑え、チームはBRD4へのオフターゲット結合が原因と推定した。
  • BRD4結合を取り除く最適化により、増殖抑制は消え、ヒト全血でのTLR7/8依存的IL-6産生の強力な阻害は維持された。
💡 ポイント

細胞パネルでの不可解な毒性から機構の仮説を立て、SARで二つの活性を切り分けるという、表現型起点のオフターゲット対策のきれいな例だ。エンドソームのTLR7/8拮抗薬には膜透過性と高い選択性の両立が必要で、平面性の高いヘテロ芳香族はBRD4という落とし穴にはまりやすい。他の骨格に応用する前に、TLR7/8二量体界面でのピリドンの結合様式を確認したい。

Structure-Based Design of 2-(Pyridone)Indoles as Antagonists of the Toll-Like Receptors TLR7 and TLR8 for the Treatment of Autoimmune Disorders ↗

🧬

薬理

1件

BCL9/β-カテニン阻害の低分子をグリオブラストーマ細胞で検証

  • β-カテニンの共活性化因子BCL9には低分子阻害剤がなく、グリオブラストーマでの治療的価値は薬理学的に検証されていなかった。
  • 新規阻害剤ZD37-28Rはドッキングでβ-カテニンへの結合が予測され、in vitroでBCL9/β-カテニン相互作用を阻害した。
  • β-カテニン依存的な転写を抑え、U87-MGとU251のグリオブラストーマ細胞の増殖と遊走を低下させた。
💡 ポイント

Wnt/β-カテニンは低分子創薬の墓場と言われてきた。β-カテニン全体を狙うより、BCL9選択的なPPI阻害のほうが現実的な切り口だ。残る課題はPPI創薬で定番のもので、ドッキングではなく直接的な物理化学的結合の証拠、他のβ-カテニン結合因子への選択性、グリオーマに必要な脳内曝露である。現時点ではリードではなく、標的バリデーションの仕事として読むべきだ。

Pharmacological Study of Novel Small-Molecule Inhibitors Targeting B-Cell Lymphoma 9/β-Catenin in the Treatment of Glioma ↗

💻

計算・AI創薬

1件

溶媒込みのニューラルネットワークポテンシャルで、リガンド歪みをライブラリ規模で見積もる

  • 従来の歪みエネルギー推定は気相の単一極小構造を基準にするため、溶媒を無視し、真空中で分子内静電相互作用によりコンパクトに潰れる荷電リガンドを歪めて評価する。
  • AIMNet2-CPCMは、連続溶媒中のDFTレベルのエネルギーと力で学習したニューラルネットワークポテンシャルで、中性種と荷電種を同じ枠組みで扱う。
  • GPUのバッチ推論により、スクリーニングライブラリ全体で溶媒込みの大域的極小探索が現実的になる。
  • 約8,000件のPDBリガンドでは、溶媒込みの歪みは正味電荷とともに増加し、その傾向は電荷−2まで安定している。
💡 ポイント

歪みフィルターの精度は結合していない側の基準状態で決まる。双性イオンが真空中で塩橋を作って折りたたまれるのを見たことがあれば、気相の数値が誤解を招く理由は明らかだ。ライブラリのトリアージに使える速度の、溶媒・電荷対応ポテンシャルは、ドッキング後のフィルターに実際に組み込みたい。ただし負電荷が大きい領域では信頼性が下がり、これは酸やリン酸基を持つ分子で効いてくる。

Efficient and Accurate Ligand Strain Calculations in Solution with the AIMNet2 Neural Network Potential ↗

🏢

業界ニュース

2件

Isomorphic Labsの評価額報道が、AI創薬への期待と注目度を押し上げる

  • STATのAI Prognosisコラムは、Isomorphic Labsの極めて高い評価額がAIの創薬における役割について何を語るのかを問う。
  • 別の報道によれば、同社は2026年5月に約21億ドルを調達した直後に、評価額400億ドル以上での新たな資金調達を初期段階で協議している。調達は成立していない。
  • コラムは、AIと医療費をめぐる議論にも触れている。
💡 ポイント

この水準の評価額は、パイプラインではなくプラットフォームの選択肢を織り込んでいる。Isomorphicには公表された臨床段階の実績がまだなく、投資家は構造予測AIが最初の候補品までの道のりを短縮する可能性にお金を払っている。業界にとっては、AIネイティブなバイオテックに求められる臨床での証明のハードルが上がり、提携資金も先行企業に集まりやすくなる。この数字は協議の段階で、成立した取引ではない点に注意したい。

STAT+: What's the deal with Isomorphic Labs? ↗

Lilly、組織標的型脂質ナノ粒子でMetisのAIプラットフォームに賭ける

  • Eli Lillyと香港上場のMETiS TechBioは、組織特異的なデリバリー技術を開発するため、最大約11億ドルの提携で合意した。
  • METiSは、大規模な脂質ライブラリ、スクリーニング、脂質言語モデルを組み合わせたイオン化脂質探索プラットフォームAiLNPを提供する。
  • Metisは数千万ドル台前半の契約一時金に加え、開発・承認・販売マイルストンと1桁%の段階的ロイヤルティを受け取る。候補品や適応症は公表されていない。
💡 ポイント

見出しの金額はほぼ全て条件付きなので、本当のシグナルは数千万ドル台前半の契約一時金にある。Lillyが買っているのは資産ではなく、デリバリー化学へのオプションだ。肝臓以外へのLNP標的化は遺伝子医薬のボトルネックで、Lillyはその周辺で提携を積み上げている。LNP設計の競合にとっては、AI生成の脂質ライブラリが生体内で再現性ある組織選択性を示せるかが焦点になる。

Lilly partners with Hong Kong's Metis in $1.1B deal to bolster AI nanoparticle discovery ↗