トピック

タンパク質間相互作用

11件

BCL9/β-カテニン阻害の低分子をグリオブラストーマ細胞で検証

  • β-カテニンの共活性化因子BCL9には低分子阻害剤がなく、グリオブラストーマでの治療的価値は薬理学的に検証されていなかった。
  • 新規阻害剤ZD37-28Rはドッキングでβ-カテニンへの結合が予測され、in vitroでBCL9/β-カテニン相互作用を阻害した。
  • β-カテニン依存的な転写を抑え、U87-MGとU251のグリオブラストーマ細胞の増殖と遊走を低下させた。
💡 ポイント

Wnt/β-カテニンは低分子創薬の墓場と言われてきた。β-カテニン全体を狙うより、BCL9選択的なPPI阻害のほうが現実的な切り口だ。残る課題はPPI創薬で定番のもので、ドッキングではなく直接的な物理化学的結合の証拠、他のβ-カテニン結合因子への選択性、グリオーマに必要な脳内曝露である。現時点ではリードではなく、標的バリデーションの仕事として読むべきだ。

Pharmacological Study of Novel Small-Molecule Inhibitors Targeting B-Cell Lymphoma 9/β-Catenin in the Treatment of Glioma ↗

効力を保ったままhERGを下げたDCN1–UBE2M相互作用阻害剤

  • 先行ツール化合物NAcM-OPTはDCN1–UBE2M相互作用を阻害し、経口投与でき、異種移植腫瘍の増殖も抑えたが、hERGへの有意な親和性が開発のネックだった。
  • 著者らは骨格を系統的に修飾し、DCN1への結合を保ちつつhERG結合を低減させた。
  • 得られた化合物110は、生化学的・細胞での効力は親化合物と同等で、物性が改善し、hERGに対する選択性も向上した。
💡 ポイント

心毒性で行き詰まった検証済みPPIケモタイプを、SARだけで立て直した地味だが重要な続編だ。塩基性で脂溶性の高いPPI阻害剤を抱えているなら、ファーマコフォアを手放す前に、hERGは構造修飾で外せるかどうかを自分のシリーズで確かめる価値がある。

Reducing off-Target hERG Activity of First-Generation DCN1-UBE2M Interaction Inhibitors: Design, Synthesis, and Structure−Activity Relationships ↗

mRNAディスプレイ由来の大環状ペプチドIMP2660が、エフェクター非存在下のRAB27A構造解析を可能に

  • RAB27Aのエフェクター結合面を標的にmRNAディスプレイを行い、大環状ペプチドのヒットを得て最適化し、IMP2660に到達した。
  • IMP2660はRAB27Aに強く結合し、RAB27A–エフェクター相互作用を阻害する。
  • 活性型RAB27Aとの共結晶構造をエフェクターなしで取得でき、エフェクター結合面の構造ベース設計の足場になる。
💡 ポイント

見過ごされがちな成果は結晶化シャペロンとしての価値だ。野生型RAB27Aはエフェクターとの複合体でしか結晶化できなかったので、マクロ環結合構造が得られればソーキングやフラグメント研究が回せる。ただIMP2660が道具を超えるかは別問題で、細胞内GTPaseを狙う大環状ペプチドの膜透過性が最大の壁になる。

A potent macrocyclic peptide binder enables effector-free crystallization of the GTPase RAB27A ↗

HTS基盤でtauとLRP1受容体の結合を阻害する低分子を同定

  • 精製したLRP1リガンド結合ドメイン4を軸に、蛍光偏光、スプリットルシフェラーゼ、TR-FRETからなる定量的アッセイ群を構築した。
  • tau、RAP、ペプチドリガンドは重なる結合部位を競合し、いずれの形式でもナノモル域の親和性が観察された。
  • このプラットフォームのスクリーニングで相互作用を阻害する低分子が見つかり、tauの取り込みと伝播を抑える出発点となる。
💡 ポイント

受容体の細胞外ドメインとのタンパク質間相互作用は難標的で、3種の直交アッセイでアーティファクトを除くやり方は妥当だ。ヒットは、細胞でのtau取り込み阻害を示し、ApoEなどLRP1の他のリガンドへの広範な影響が無いと確認されるまで慎重に見たい。

High-Throughput Screening Identifies Small-Molecule Inhibitors of the Tau-LRP1 Interaction ↗

mRNAディスプレイ由来マクロ環がCHD4をNuRD複合体の相互作用ハブと示す

  • CHD4のSANT-SLIDEドメインに対するmRNAディスプレイで、NuRD複合体形成の要となるGATAD2Aとの相互作用を阻害する小型マクロ環状ペプチドが得られた。
  • スクリーニングはCHD4上の第二の結合部位も示唆し、CDK2AP1がそこに結合することを確認、CHD4–GATAD2A–CDK2AP1三者複合体の構造も決定された。
  • NuRDの破壊は胎児型ヘモグロビンの発現を誘導し、鎌状赤血球症などβヘモグロビン異常症に対する実証済みの治療戦略である。
💡 ポイント

一回のセレクションでヒットと生物学的知見の両方が得られた点が秀逸だ。タンパク質間相互作用面に乗るマクロ環はそのままでは創薬向きとは言いにくく、三者複合体の構造を手がかりに細胞膜透過性のある分子へ小型化できるかが私の関心事。CHD4上の第二部位はその新たな足がかりになる。関連リモデラーへの選択性も確認したい。

Macrocycle Screening against the C-Terminal Region of CHD4 Uncovers Its Role as an Interaction Hub in the Formation of the Nucleosome Remodeling and Deacetylase Complex ↗

Scopeライブラリ:フラグメントと完成分子の間の化学空間で扱いやすいヒットを狙う

  • Scopeは、フラグメントと高度に修飾された低分子量ライブラリ化合物の中間に位置する化学空間を定義し、化合物の質、リガンド効率、選択した物性範囲を重視して、メディシナルケミストリー上扱いやすいヒットを得ることを狙う。
  • Scope環系(ring-X-ring)がこの空間を整理し、低〜中マイクロモル域の活性を目指した意図的な官能基化を導く。約1万化合物のセットは、SPR、ネイティブMS、DSF、生化学アッセイによる中程度スループットのスクリーニングに適する。
  • トリパノソーマCLK1、14-3-3/ERαの分子糊プロジェクト、SARS-CoV-2 Mproの事例では、一次ヒット率は多様性セットと同程度で、カウンタースクリーニング後のリガンド効率は優れていた。
💡 ポイント

正直、ここで惹かれるのは「すぐ手を動かせるヒット」という発想だ。フラグメントと完成度の高い化合物の間に置いたライブラリで、リガンド効率を軸に、ring-X-ring のコアが次にどこを修飾すべきかを示してくれる。1万化合物規模ならSPR、ネイティブMS、DSFで回せるので、小さなグループでも扱える。気になるのは、一次ヒット率は多様性セットと同程度でカウンタースクリーニング後のLEが良いという結果が、3標的を超えても再現するのか、そして環系の制約が新規性をどこまで狭めるのかという点だ。

The Scope Concept: Defined Chemical Space for Identifying Ligand-Efficient, Tractable Hits Applied to Drug Discovery Targets Trypanosomal CLK1, 14–3–3/Estrogen Receptor-α, and SARS-CoV-2 Mpro ↗

イミダゾリウムアミノ酸、メチル化リジン・アルギニン残基のバイオイソスターとして提案

  • イミダゾリウムアミノ酸は、トリメチルリジン、ジメチルアルギニン、アルギニン側鎖のサイズと電荷を模倣する陽イオン性バイオイソスターとして提案されている。
  • メチルリジン「リーダー」ドメインへの結合を評価し、これらの代替残基が天然残基の認識と選択性をどれだけ再現できるかを検証している。
  • 細胞アッセイでは、この荷電イソスターが膜を透過できることが示され、SAR解析ではイミダゾリウム環の置換パターンが結合親和性と透過性のバランスに関係し、リーダーリガンドや細胞透過性ペプチドの設計に指針を与える。
💡 ポイント

非加水分解性のKme3/Rme2ミミックというのは実に厄介な問題を解決してくれる——天然のメチル化ペプチドは脱メチル化酵素で消されるか、アッセイの途中でプロテアーゼに切断され、SARを濁らせる。環の置換基でアフィニティを調整しつつ膜透過性を落とさずに済むなら、これはリーダードメインPPI阻害剤やアルギニン非依存CPPの本物の代替スキャフォルドになる——単なるもう一つの第四級アンモニウムの目新しさではなく、自前のKme3リーダーパネルで試す価値がある。

Evaluation of Binding and Cell Penetration of Imidazolium Amino Acids as Novel Bioisosteres for Trimethyllysine, Dimethylarginine, and Arginine ↗

AIコフォールディング型バーチャルスクリーニングをストレステスト:Keap1–Nrf2を題材にした事例研究

  • 多段階のバーチャルスクリーニング・カスケード(AIによる共構造予測〔コフォールディング〕モデルと学習型アフィニティ・スコアリングを組み合わせた手法)は、計算創薬においてすでに標準的な手法となっている。
  • 各段階のスコアは、その意味するところを独立に検証されないまま、そのまま信頼されて候補化合物の選別・絞り込みに使われることが多い。
  • 本プレプリントは、Keap1–Nrf2タンパク質間相互作用を題材として、各段階のスコアが実務者にとって信頼できる情報を実際に持っているかどうかを、段階ごとに体系的に検証している。
  • 著者らは、カスケードの各段階で生じる失敗パターンを整理し、これらのパイプラインがどこで、なぜ誤りうるかについて品質管理の観点から考察している。
💡 ポイント

今どのスクリーニングも、co-folding予測とMLスコアリングを組み合わせたカスケードを回すのが当たり前になっていて、正直、各ステージをいちいち検証するのは面倒なので、最終的なランキングをそのまま信じてしまいがちだ。 このプレプリントが突いているのはまさにその習慣で、Keap1-Nrf2という、平坦で浅いPPI界面ゆえにドッキングやファーマコフォア法でも昔から手を焼いてきたターゲットを使い、スコアリングのアーティファクトが表に出やすいストレステストとして検証している。 アブストラクトの枠組みが正しければ、伝えたいメッセージは「これらのツールを使うな」ではなく「各ステージが実際に何を測っているか分からないまま、単一の複合スコアを鵜呑みにするな」ということだろう。ポーズの確信度、親和性ランキング、物理的な妥当性はそれぞれ別物で、それらを混同することが偽陽性を上位に押し上げる原因になる。 詳細な方法論と失敗モードの内訳が公開されたら、改めて見直す価値がある——現時点ではまだ情報が薄い。

Per-Stage Controls and Failure Modes in a Co-Folding Virtual Screening Cascade for the Keap1–Nrf2 Interaction ↗

新たな化学空間概念「Scope」、3つの創薬標的で高リガンド効率のヒット化合物を実現

  • 「Scope」は、最小限のフラグメントと完全に最適化された低分子量(LMW)ライブラリの中間に位置する、1万〜5万化合物規模の化学空間概念であり、リガンド効率と医薬化学的な扱いやすさ(トラクタビリティ)を最大化するよう設計されている。
  • 著者らは「Scope環系」(ring-X-ring)を、ライブラリ設計と十分な効力を得るための官能基化を導く中核的な構成原理として提唱している。
  • SPR、ネイティブ質量分析、DSF、生化学的アッセイで評価された1万化合物規模のScopeスクリーニングセットは、より高い濃度でスクリーニングしても一般的な多様性セットと同等のプライマリーヒット率を維持しつつ、リガンド効率に優れ、カウンタースクリーニング後のヒット率も高い。
  • トリパノソーマ由来CLK1キナーゼ、14-3-3/エストロゲン受容体α分子糊(モレキュラーグルー)プロジェクト、SARS-CoV-2主要プロテアーゼを対象とした事例研究により、多様な結合部位にわたって多様で扱いやすくリガンド効率の高いヒットが得られることが示された。
💡 ポイント

「フラグメントとフルライブラリーの中間」というポジショニング自体は目新しくない――DEL、FBDD、各社の自前ライブラリーもみな同じことを謳ってきた。Scopeで本当に新しいのは"ring-X-ring"という組み立て方だ。平面的な単一スキャフォールドではなく、2つの環系からベクトルを出す設計にすることで、ヒット取得の時点からSAR展開の方向性が組み込まれる。これはフラグメント創薬では後付けになりがちな部分。 個人的に気になる数字はヒット率そのものより「カウンタースクリーニング後のヒット率が高い」という点――SPRアーチファクトや凝集体を追いかける無駄な一週間が減るということだ。 本当の試金石は14-3-3/ERαグルー分子の事例。PPI・グルー標的は深いポケットがなくLEを稼ぎにくいため、通常のライブラリーでは苦戦しがち。この剛直で中規模なスキャフォールド群がグルーヒットの種になるなら、それこそ追うべき"移植可能性"の主張であり、MproやCLK1での成功よりも注目に値する。

The Scope Concept: Defined Chemical Space for Identifying Ligand-Efficient, Tractable Hits Applied to Drug Discovery Targets Trypanosomal CLK1, 14–3–3/Estrogen Receptor-α, and SARS-CoV-2 Mpro ↗

ベンチマーク研究、Keap1-Nrf2標的のAIスクリーニングに潜む落とし穴を指摘

  • 構造ベースのコフォールディング(co-folding)モデルと学習型アフィニティスコアリングを組み合わせたバーチャルスクリーニングのパイプラインを検証する新しいベンチマーク研究が発表された。こうした構成は計算によるヒット探索で近年一般的になっている。
  • このカスケードは、平坦で極性の高い結合界面を持つためドラッグ化が難しいとされるKeap1-Nrf2タンパク質間相互作用(PPI)を対象に適用された。
  • 著者らは最終的なランキング結果のみを信頼するのではなく、各段階のスコアが実験的に意味のある信号と一致しているかを個別に評価した。
  • その結果、各段階のスコアが実験的信号から外れる具体的な破綻パターンが特定され、これが後段の化合物優先順位付けを誤らせる可能性があることが示された。
  • 本論文は、カスケードの最終的なヒットリストを信頼する前に実務者が各段階で実施すべきコントロールチェックを提案しており、新規阻害剤の報告ではなく、手法・信頼性に関する研究として位置づけられている。
💡 ポイント

Keap1-Nrf2は、まさにco-foldingモデルが自信満々にそれっぽいポーズを出し、affinityスコアがそれを的外れな理由でトップに押し上げてしまう、平坦で極性の強いPPIそのものだ。だからこそ、カスケードを段階ごとに分解して検証したこの論文は、「ヒットを見つけた」という論文よりずっと実用的に思える。 自分のベンダー製・自社製パイプラインの上位20化合物を合成キューに乗せる前に走らせるチェックリストとして読みたい。co-folding信頼度とaffinityスコアが静かにズレ始めているなら、それこそ実体のない化合物に何週間も溶かしてしまう典型的な失敗パターンだ。 新しい化学構造も追うべき結合モードもない。あるのはただ、このクラスの厄介な標的では、ランキングされたリスト自体はQCステップではないという注意喚起だけ。「注文前に読む」案件であって、「阻害剤として読む」案件ではない。

Per-Stage Controls and Failure Modes in a Co-Folding Virtual Screening Cascade for the Keap1–Nrf2 Interaction ↗

マラリア侵入を左右する隠れたループ

  • これは新規の実験データを伴う論文ではなく、抗マラリア薬の標的であるPlasmodium falciparum頂端膜抗原1(PfAMA1)に関する総説・考察記事である。
  • PfAMA1はロプトリーネック蛋白2(PfRON2)と結合してmoving junction(移動接合部)を形成し、マラリア原虫が赤血球に侵入する際に不可欠であるため、このタンパク質間相互作用は重要な治療標的とされる。
  • これまでの構造ベース阻害剤設計の多くは、PfRON2ペプチドを収容するPfAMA1上の明確な溝である疎水性トラフ(hydrophobic trough)を標的としてきた。
  • 著者らは、このトラフ近傍にあるドメイン2(D2)ループが、固定された構造ではなく、隠れた(cryptic)コンフォメーション依存的な動的挙動を示すことを指摘している。
  • これまで見過ごされてきたこのループの柔軟性が、PfAMA1がPfRON2を認識する様式に重要な影響を与えていると論じている。
  • 本総説は、今後の抗マラリア薬設計において、結合部位を静的なものとして扱うのではなく、トラフ自体に加えてD2ループの動的挙動も考慮すべきであると提言している。
💡 ポイント

トラフだけを見て設計していたら、一つの共結晶構造からリジッドなファーマコフォアを組んで、なぜ類縁体が説明できない形で活性を落とすのか悩んでいただろう——それがD2ループの仕業だ。主要ポケットの隣にクリプティックでコンフォメーション依存の要素があるということは、PyMOLで眺めている『ドラッガブルな溝』がバインディングイベントの全てではないということ。剛体レセプターのSBDDをもう一周するより、アンサンブルドッキングや短いMDでまず狙うべき状態を可視化する必要がある。これはBcl-2/Mcl-1やMDM2-p53の仕事と同じ教訓で、定義されたホットスポットの近くにある柔軟なループやヘリックスこそが、しばしばアンカーポケットではなく選択性を決めている。新しい化合物が出てきたわけではないが、自分たちのPfAMA1シリーズをループを意識したアンサンブルで見直し、SARのギャップを単なるノイズと片付けていないか確認する良いきっかけだ。

Beyond the Hydrophobic Trough of PfAMA1: Pivotal Roles of Cryptic Loop Dynamics Inform Anti-Malarial Therapeutic Design ↗