トピック

共有結合型創薬

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フマル酸エステルを付加したTTK阻害剤がRNF126経由の一価分解薬に

  • TTK阻害剤に求電子性のフマル酸モノメチルを付けるだけで、E3リガンドを持たない単一弾頭の分解薬が得られた。
  • 代表化合物はTTKを分解し、複数のがん細胞株で元の阻害剤より強い増殖抑制を示した。
  • 機構解析では、化合物がE3リガーゼRNF126とTTKの会合を安定化し、ユビキチン化とプロテアソーム分解を促すと示唆された。
💡 ポイント

一価分解薬の魅力は、阻害剤並みの分子量と膜透過性を保てることだ。ただしフマル酸ハンドルはシステイン反応性の基なので、RNF126だけで説明できるかはプロテオーム規模の反応性データを見てから判断したい。それでも他のキナーゼ骨格に使い回せるなら、手持ちの阻害剤シリーズで試す価値のある安上がりな手だ。

Discovery of Threonine Tyrosine Kinase (TTK) Degraders Utilizing an Electrophilic Monomethyl Fumarate Handle ↗

求電子剤優先スクリーニングでE2酵素UBE2D2の共有結合型アミノチアゾール阻害剤を同定

  • 求電子剤を先に選ぶスクリーニングとX線結晶構造解析により、UBE2D2の2つのシステイン(C85とC111)に結合する共有結合性ヒットを得た。
  • アミド基とエステル基を構造に基づいて改変し、C111への結合を消してC85への親和性を高めた。
  • 最適化類縁体はUBE2D2の酵素活性を阻害し、A549肺がん細胞の増殖を抑えた。
💡 ポイント

E2酵素は創薬困難と見なされてきたので、結晶構造に裏づけられた共有結合シリーズが出てきたこと自体が前進だ。注目は2つ目のシステインへの結合を設計で消した点で、プローブと呼ぶには必須の作業である。次に知りたいのはUBE2Dファミリーの他メンバーへの挙動で、活性中心システインは保存されているため、選択性が最大の難所になる。

Electrophile-First Screening Identifies Covalent Aminothiazole Scaffold Inhibitors for Ubiquitin-Conjugating Enzyme UBE2D2 ↗

エポキシスクシナミド弾頭はPLproに強力だが、ヒドラジドリンカーが代謝の弱点に

  • Cys-111と反応するエポキシスクシナミド弾頭に、非共有結合型阻害薬で用いられるBL2溝への結合要素を組み合わせ、共有結合型PLpro阻害薬を設計した。
  • 化合物は非常に高い酵素活性を示し、培養細胞でウイルス力価を大きく低下させた。
  • 柔軟なヒドラジドリンカーは肝臓のカルボキシルエステラーゼで分解され、代替リンカーも奏功せず、代謝面が制約となった。
💡 ポイント

強力な弾頭が肝臓で壊れるのはよくある話だが、ここでは壊れるのがCys-111に届かせるために必要なリンカーそのものだ。次のコロナウイルスに備えてエポキシスクシナミドは手元に置いておきたい。ただ、最初に作り直すのはリンカーだろう。

Discovery of Epoxysuccinates as Potent Covalent Inhibitors of SARS-CoV-2 Papain-like Protease ↗

CHARMM-GUIに共有結合リガンドのドッキングを自動化するWebモジュール

  • CGUI-CLDはAutoDock4を基盤とするCHARMM-GUIの新モジュールで、共有結合リガンドの準備、修飾、ドッキング計算を自動化する。
  • 知識ベースのライブラリは66種のウォーヘッドと8種のアミノ酸に対応し、反応後のリガンド構造を手作業で作る必要がなくなる。
  • 結果はブラウザ上のインターフェースで確認できる。
💡 ポイント

共有結合ドッキングは私の探索がよく止まる工程で、ウォーヘッドごとに結合付加体を作るのが面倒なため、つい勘で絞り込んでしまう。ブラウザ上で処理してくれるなら、システインポケットに対するウォーヘッド一式を午後のうちに順位付けできる。ただしスコアは反応性を捉えないので、速度論データと組み合わせたい。

CHARMM-GUI Covalent Ligand Docker as a Web-Based Molecular Docking Platform for Covalent Ligands ↗

セレブロンの潜在Cys287を狙う共有結合リガンドがE3リガーゼを開状態に固定し、IMiD駆動の分解を阻止

  • システイン指向のケモプロテオミクススクリーニングで、サリドマイド結合部位から離れたアロステリックポケットCys287に結合する共有結合リガンドを同定した。
  • リード化合物VVD-105917は、IMiDやCELMoDによるネオ基質の分解を広く阻害する。
  • クライオ電顕で、セレブロンを開いた不活性型に固定することが示され、リガンド添加順序にも依存する。同部位の既報リガンドは逆に閉鎖を促進するため、このポケットは作用が反転しうる。
💡 ポイント

これまでのCRBN薬は全て単一のオルソステリックポケットに結合するため、開閉スイッチを制御する共有結合ハンドルは本当に新しいつまみだ。パン阻害薬は分解薬の機序解析やオフターゲット分解のレスキューに優れたツールになる。どちらにも振れる部位ということは、分解を高めるリガンドが同じポケットに潜む可能性もある。プレプリントなので査読を待ちたい。

Allosteric covalent inhibition of cereblon through cryptic cysteine targeting ↗

共有結合型ライブラリのハイコンテントスクリーニングで、新たな初期有糸分裂阻害剤を同定

  • 紡錘体形成の初期異常を捉える、細胞ベースのハイコンテントイメージングスクリーニングを構築した。
  • システイン反応性ライブラリ3,520化合物に適用し、微小管脱重合剤、紡錘体位置決定の撹乱剤、紡錘体構造や染色体整列に影響する化合物が見つかった。
  • うち2化合物は有糸分裂停止とがん細胞の生存率低下を引き起こした(プレプリントで査読前)。
💡 ポイント

共有結合型ライブラリでの表現型スクリーニングは、標的ベースでは拾えないケモタイプを見つける理にかなった方法だ。弱点は標的同定で、システイン標的が分かるまでは、微小管脱重合剤もまた一つのチューブリン結合剤で終わる恐れがある。注目はチューブリン以外のヒットだ。

Identification of Cysteine-Reactive Early Mitotic Inhibitors ↗

HTS由来の共有結合性阻害薬が活性型GTP結合KRAS G12Cを標的に

  • 既存のKRAS G12C薬は主に不活性なGDP型を捕捉し、耐性も報告されている。本シリーズは活性型のGTP結合状態を狙う。
  • HTSで得たケトインドリジン骨格とアニリン由来アクリルアミドが、switch-IIポケットのCys12に共有結合。結晶構造では、ワーヘッドがGTPアナログのγリン酸と相互作用していた。
  • 最適化で得た化合物17は前臨床動物種で経口吸収性を示し、KRAS–cRAF結合とERKシグナルの阻害を持続させ、膵臓がん異種移植モデルで完全退縮を示した。
💡 ポイント

γリン酸を使ってワーヘッドを位置決めする発想が巧みで、GTP型への選択性がポケットだけでなくヌクレオチド自体に由来する。比べたいのはRAS(ON)三者複合体阻害薬で、あちらはシクロフィリンAを要するが本系は不要だ。アクリルアミドの反応性とプロテオーム全体でのシステイン選択性も、GDP型結合薬以上に重要になる。

Discovery of Novel Oral Covalent Inhibitors Targeting Active GTP-Bound KRAS G12C with Potent Antitumor Activity ↗

共有結合フラグメントがSHP2アロステリック・ラッチ部位のリジンに到達

  • 求電子剤先行型の共有結合フラグメントスクリーニングとリガンド先行型の戦略を組み合わせ、ホスファターゼSHP2のアロステリック・ラッチ部位のリジンを標的とした。
  • 計算と実験の両面から結合様式が裏づけられ、この部位で初の強力かつ細胞活性をもつアロステリック共有結合阻害薬を得たと著者らは述べる。
  • ラッチ部位が共有結合的に攻略可能であることを示し、新たなSHP2アロステリック骨格への道を開く。
💡 ポイント

リジンを狙う共有結合化学はシステインよりはるかに少なく、SHP2そのものよりも、リジンで細胞活性ヒットを実際に出せるワークフローが収穫だ。気になるのは反応性と安定性のバランスで、リジン向け求電子剤は加水分解や可逆性の問題を抱えやすい。プローブと呼ぶ前にプロテオーム全体の選択性データがほしい。

Fragment-Based Covalent Targeting of Lysines at the Allosteric Latch Site of SHP2 ↗

シクロオクチンのクリックでCope脱離を誘起し、Michael受容体ウォーヘッドを活性化してペイロードを放出

  • Michael受容体をヒドロキシルアミンでマスクし、シクロオクチンとの生体直交反応でCope脱離を起こして、温和な条件で求電子部位を再生します。
  • 不飽和カルボニル、シアノ、スルホニル、ホスホネート、マレイミドなど幅広いウォーヘッドに適用でき、活性化速度も調整できます。
  • 機能化シクロオクチンを使えば、イメージング用などのペイロードを同時に放出でき、活性化を示すシグナルが得られます。
  • 共有結合性阻害剤に応用し、細胞内で制御された活性化が示されました。
💡 ポイント

マスクしたウォーヘッドは、アクリルアミド系リードのオフターゲット反応性をついに解決できるのでしょうか。Michael受容体をヒドロキシルアミンで保護し、シクロオクチンのクリックで解除する設計は、トリガーを加えた場所でだけ共有結合性をオンにできる点が巧みです。ただしアブストラクトだけでは判断できないため、速度定数、ヒドロキシルアミン体が標的親和性を保つか、シクロオクチンの大きさや脂溶性が通常のウォーヘッドと比べてどうかを確認したいところです。

A Click-Triggered Bioorthogonal Strategy for Dual Activation of Covalent Warheads and Reporter Payloads ↗

JNKシグナルの遮断でKRAS G12D阻害薬に耐性の膵がん細胞が再び感受性を示す

  • KRAS G12D阻害に適応した膵がん細胞は、JNK経路をより完全に抑えることで感受性を回復させることができる。
  • MAP2K4、MAP2K7、または両者に対する選択的な共有結合性阻害剤を用い、必要なJNK抑制の程度を調べた。
  • JNKをより強く遮断すると、耐性細胞でKRASシグナルを再活性化するフィードバック回路が働かなくなる。
  • 阻害薬に感受性の細胞では効果が見られず、この脆弱性は耐性状態に特異的である。
💡 ポイント

これが裏付けられるなら面白いのは筋の通し方で、KRAS G12D阻害薬への耐性がJNKのフィードバックを介しているなら、再びKRASを叩くのではなく経路を組み替えるノードを狙うことになる。MAP2K4とMAP2K7への共有結合は、抑制をどこまで深くすべきかを問う巧い手だが、両キナーゼ間の選択性が実際のSARの悩みどころになるだろう。感受性の細胞に影響しない点は心強いが、まだ要旨レベルの話だ。

Exploiting Acquired Drug Resistance in Pancreatic Cancer through Selective Covalent Targeting of MAP2K4/7 ↗

共有結合型シクリトールアジリジン、脳移行性で選択的なGBA2阻害薬を実現

  • GBA2にはGBA1やグルコシルセラミド合成酵素と区別できる阻害薬がなかった。研究チームは、既報のβ-D-アラビノフラノース型活性ベースプローブを土台に、エポキシド、環状硫酸エステル、N-アルキルアジリジンなど求電子基をもつシクリトールの集中ライブラリーを構築した。
  • GBA1、GBA2、GBA3、グルコシルセラミド合成酵素に対する評価で、GBA2に選択的な共有結合型阻害薬が見つかった。
  • リード化合物は、GBA2をin vivoで選択的に不活性化する初の脳移行性共有結合型阻害薬と報告されている。
💡 ポイント

活性ベースプローブの骨格をin vivoツール化合物へ転換した道筋が見事で、GBA1やGCSに対する選択性こそGBA2研究に欠けていたものだ。スフィンゴ脂質やライソゾーム病に取り組む人には実用的なツールになる。気になるのは、in vivo曝露下での共有結合性オフターゲットで、アジリジンは穏やかな求電子剤ではない。

β-d-Arabinofuranose-configured Cyclitol Aziridines as Selective, Brain-penetrant Covalent GBA2 Inhibitors ↗

アザフィロンプローブが、生きた細菌のプロテオームで反応性リジンを網羅的にマッピング

共有結合型創薬天然物バイオインフォ・オミクスケミカルバイオロジー・標的同定
  • 天然物スクレロチオリン由来の簡略化アザフィロン「SCL-alkyne」を、細菌でリジン反応性をプロテオーム規模で解析するために設計した。
  • in vitroでも生きた大腸菌でもリジン選択性が高く、結合部位の大半はリジンかタンパク質N末端だった。反応性リジンのうち機能領域にあるのはごく一部にとどまった。
  • 濃縮解析から細菌の走化性が主要な標的経路として浮かび、その後確認された。
💡 ポイント

共有結合リガンド探索はシステイン中心で、スルホニルフルオリドや活性エステル以外のリジン指向スキャフォールドは乏しいため、天然物由来の選択肢は魅力的だ。反応性リジンの多くは機能領域にないという知見は、反応性は安く機能は安くないという戒めになる。大腸菌でのプレプリントなので、リードではなく共有結合フラグメントの出発点と見るべきだ。

Natural product-derived azaphilones are selective scaffolds for covalent lysine liganding in live cells ↗

自由エネルギー計算でクルザイン・カテプシンLへの共有結合阻害剤結合を評価

  • 相対結合自由エネルギー(FEP型アルケミカル)計算を用いて、ウォーヘッドを持つ共有結合性阻害剤の結合を2つの関連するシステインプロテアーゼ間で比較。
  • シャーガス病の原因である Trypanosoma cruzi の主要プロテアーゼ、クルザインと、その近縁ホモログであるヒトカテプシンLを並行してモデル化。
  • この標的間比較により、寄生虫標的への選択性とヒト酵素へのオフターゲット反応性を区別し、選択性を指向した最適化に役立てる。
💡 ポイント

反応性ワーヘッドへのFEP適用は、可逆的阻害剤に比べればまだ不安定だ——共有結合のパラメータ化こそ、こうした手法が静かに破綶するポイント。とはいえ、cruzainプログラムを何度も潰してきたのは力価不足よりcathepsin Lとの交差反応性であり、合成前にオフターゲット結合体を見分けられるΔΔGランキングは本物のトリアージ価値がある——顧みられない病気研究の予算では、無駄な合成を許す余裕はないのだから。

Assessment of the Binding Affinity of Covalent Inhibitors of Cruzain and Cathepsin L Using Relative Binding Free Energy ↗

二段階合成法で共有結合型遺伝子コード化マクロサイクルライブラリーのウォーヘッド多様性を拡大

  • 共有結合型の遺伝子コード化マクロサイクルライブラリー(cGELs)を構築する二段階合成法を報告。システイン残基をジケトンリンカーで架橋してマクロサイクルを形成した後、別工程のKnorr-ピラゾール反応で求電子性ウォーヘッドを導入する。
  • 環化(塩基性条件)とウォーヘッド導入(酸性条件)を分離することで、従来の一段階翻訳後修飾法で生じていた位置異性体混合物の問題を回避する。
  • これにより、より多様で反応性の高い求電子剤を安全に利用できるようになり、DEL型選択スクリーニングにおいてタンパク質標的に対して探索可能な共有結合性ケミオタイプの幅が広がる。
💡 ポイント

共有結合性DELのヒットを解析する際、位置異性体の混在ほど自信を失わせるものはない——シグナルが本物なのか、雑多な求電子剤混合物のアーティファクトなのか判別できなくなる。環化とKnorrピラゾール型ウォーヘッド導入を分離したことで、アクリルアミドやクロロアセトアミドといった定番を超えた、より反応性の高いエキゾチックな求電子剤を、ヒットの同一性を疑うことなくついにスクリーニングできるようになる。

A Two-Step Synthesis of Covalent Genetically Encoded Libraries of Peptide-Derived Macrocycles Enables the Use of Electrophiles with Diverse Reactivity ↗

脳移行性の共有結合型BChE阻害剤、アルツハイマー病モデルで認知機能改善効果

  • 研究チームは構造誘導型設計を用い、アルツハイマー病の進行に関与するとされるヒトブチリルコリンエステラーゼ(BChE)を標的とする共有結合型低分子阻害剤を開発した。
  • リード化合物は血液脳関門透過性を高めるよう設計されており、中枢作用型コリンエステラーゼ阻害剤における主要な課題に対応している。
  • in vivo試験では認知機能改善効果が示され、共有結合型BChE阻害がアルツハイマー病の治療戦略として有望であることが支持された。
💡 ポイント

病期が進むとBChEが上昇し、AChEが低下するという知見が、ついにAChE一辺倒の定説から研究を前進させている。ただ、AChEなど近縁パラログの多いセリン加水分解酵素ファミリーに共有結合ウォーヘッドを当てるなら、効力データだけでなく厳密な選択性データが必要だ。リバスチグミン系の可逆的阻害薬と実際に一線を画すのはCNS移行性——脳への到達は従来ずっと解決できていなかった課題だ。

Structure-Guided Design of a Brain-Penetrant Covalent Inhibitor of Human Butyrylcholinesterase with In Vivo Procognitive Efficacy ↗

片手性分子が細胞死スイッチBAXを無力化

  • この研究ハイライトでは、立体選択的でシステイン反応性を持つ分子が、アポトーシス促進タンパク質BAXを不活性な立体構造に固定し、プログラム細胞死を阻止することを取り上げている。
  • 最適化により、in vivo投与に適したリード化合物が得られ、急性肝障害マウスモデルにおいて肝細胞死を抑制し臓器機能を維持した。
  • 同化合物は、健常者およびALS患者由来の幹細胞から作製した運動ニューロンも保護し、神経変性疾患への応用可能性も示唆された。
💡 ポイント

動物モデルまで生き残る結合様式の美しさにはなかなかお目にかかれない——BAXの不活性構造を立体選択的かつシステイン指向的な共有結合でロックする手法は、これまでほぼ可逆的なPPI創薬一色だった標的クラスに新風を吹き込む。肝障害モデルとALS患者由来運動ニューロンの両方で効果が持続した点は、単なる偶然のクロスリンカーではなく真の標的エンゲージメントを示唆するが、オフターゲットのシステインパネルはまだ見たい。

Covalent BAX inhibitor confers cytoprotection ↗

リジン標的型の共有結合性フラグメントがSHP2阻害への新たなアロステリック経路を開く

  • 研究チームは、共有結合性フラグメントスクリーニングとリガンド起点の設計戦略を組み合わせた新しいパイプラインを構築し、システインではなくリジン側鎖と反応する化合物を探索した。
  • 対象はSHP2ホスファターゼのアロステリックな「ラッチ」領域であり、触媒ポケットや従来創薬されてきたアロステリックトンネル部位とは異なる調節部位である。
  • 計算科学的モデリングと実験的解析を組み合わせてフラグメント選定を導き、ラッチ部位のリジンへの共有結合がタンパク質の構造挙動に与える影響を解明した。
  • この手法により、この部位を介して作用する初の強力かつ細胞内活性を示す共有結合阻害剤が得られ、このポケットが単なる構造解析対象ではなく機能的な薬剤結合部位となり得ることが示された。
  • 本研究は、リジン指向型の共有結合化学がSHP2のアロステリック制御における有効な手段であることを示し、今後の医薬化学的最適化のための出発点となる化学構造と作用部位を提供する。
💡 ポイント

リジン指向型の共有結合化学こそが本当の賭けだと思う。ウォーヘッド化学や選択性の絞り込みは、システインアクリルアミドに比べてまだ未成熟なので、細胞活性データを信用する前にまずプロテオーム全体のリジン反応性データを見たい。 このラッチ部位自体も本当に新しい——SHP099やTNO155系のアロステリック阻害剤が結合する部位とは別物なので、混雑したIP空間の焼き直しではない。 フラグメントスクリーニングの段階でいきなり細胞活性を示すヒットが出るのは、このポケットの形状かハイパーリアクティブなリジンの存在を示す強いシグナルだが、リジン化学でのフラグメント・トゥ・リードは、慣れ親しんだシステインウォーヘッドに比べてSARサイクルが遅くなることを意味する。本当の価値は、アロステリック空間が枯渇しかけていたターゲットに対して、新しいケモタイプと部位を得たことにある。

Fragment-Based Covalent Targeting of Lysines at the Allosteric Latch Site of SHP2 ↗

X線構造解析で見えた、キナーゼ阻害剤による保存触媒残基への結合様式

  • 300を超えるキナーゼ阻害剤複合体のX線共結晶構造を解析し、繰り返し現れる非共有結合的な接触パターンを網羅的に整理した。
  • ATPポケット近傍に存在する保存されたLys、Asp、Glu残基を「触媒クラスター残基(CCR)」と定義し、これらが触媒作用を担いつつ結合した阻害剤と頻繁に接触することを示した。
  • ほとんどの阻害剤化学型において、これらの極性残基は共有結合ではなく非共有結合的相互作用を形成しており、リガンド設計における汎用的な足がかりとなり得る。
  • CCRの側鎖配向はキナーゼの活性型・不活性型といったコンフォメーション状態と連動しており、結合の幾何構造が構造動態と結びついていることを示している。
  • 著者らは、このコンフォメーション連動的な性質が、効力向上とキノーム全体にわたる選択性の調整を目指した合理的・構造基盤型の阻害剤設計に活用できると論じている。
💡 ポイント

「Catalytic Cluster Residues」という呼び方は目新しいが、根底にあるアイデア自体は、キナーゼ屋なら誰でも経験的に使っている手法だ――Lys-Gluのイオン対やDFG-Aspとの接触など。 今回の価値は、それを体系化した点にある。300以上の構造があれば、ヒンジ結合やバックポケットでの選択性稼ぎではなく、これら極性残基との相互作用を積極的に狙うべきタイミングを統計的に判断できる。 CCRの配座がactive/inactive状態と本当に連動しているなら、それは実用的な設計レバーになりうる――共有結合ウォーヘッドに頼らず、塩橋や水素結合でtype-I/type-IIの結合様式を作り分けられるかもしれない。システインの副反応リスクや共有結合の可逆性が気になる場面では魅力的だ。 ただ、この配座連動の主張がキノーム全体で本当に成り立つかは懐疑的だ。300構造も、サブファミリーごとに分けてみるとEGFR・ABL・CDKなど一部のスキャフォールドにPDB登録が偏っている可能性が高く、網羅性は決して十分とは言えない。

A Structural Perspective on Non-covalent Targeting of Conserved Polar Residues in Protein Kinases ↗

小胞体標的近赤外プローブによりhCES2A阻害剤の迅速な発見を実現

  • 近赤外蛍光プローブPA-HDCIは、HDCI骨格を基盤とし、小胞体(ER)に局在するよう設計されており、生細胞や動物内でヒトカルボキシルエステラーゼ2A(hCES2A)の活性をリアルタイムに検出できる。
  • PA-HDCIは大きなストークスシフト、高い代謝安定性、確実なER標的性を兼ね備えており、多様な生物学的システムにおいてhCES2A機能のその場イメージングを可能にする。
  • PA-HDCIを用いたハイスループットスクリーニングにより、hCES2Aに対する強力な共有結合型阻害剤である化合物A4が同定された。
  • hCES2Aは、抗がん剤イリノテカンを毒性のある活性代謝物に変換する腸内酵素であり、イリノテカン誘発性腸管毒性(IIT)の原因となる。
  • 担がんマウスモデルにおいて、A4は良好な安全性プロファイルを示し、有効性を維持しながらイリノテカンに関連する腸管毒性を軽減した。
  • 本研究は、新たなイメージングツールとhCES2A標的薬発見のための検証済みプラットフォームの両方を提供するものである。
💡 ポイント

見どころはまずプローブ設計そのもの。HDCI骨格からER選択的局在と大きなストークスシフトを引き出しており、単なる蛍光試薬ではなく、細胞内でも破綻しないフォトフィジックスを実現した設計の妙がある。 本当の価値は方法論的な転換にある。機序解析用のイメージングツールがそのままHTS読み出しとして機能し、hCES2A活性を生細胞・生体内でスクリーニング可能な表現型に変換した点は、生化学アッセイと細胞内実態との乖離を埋める。 標的そのものは目新しくない。hCES2Aはイリノテカンを腸毒性代謝物へと活性化するオフターゲット酵素として既知であり、新規メカニズムの開拓というより「副作用を潰す」タイプの創薬だ。 A4はHTS由来の共有結合型ヒットで、マウスでの安全性データは有望だが、反応性プロファイリング、エステラーゼファミリー全体での選択性評価、SAR展開といった共有結合ヒットの定石的な検証はこれから。

An ER-Targeting Near-Infrared Fluorogenic Probe for In Situ hCES2A Functional Imaging and Inhibitor Discovery ↗

反応性金属スキャフォールドでプロテオーム規模のシステインをマッピング、PRMT1阻害を発見

  • 反応性メタロスキャフォールド(r-mS)という新概念を提唱。クロロアセトアミド型の求電子ワーファーを持つ共有結合性金属錯体で、プロテオーム全体のリガンド化可能なシステインを標的とする。
  • HEK293T細胞溶解液を用いたケモプロテオミクス解析により、絞り込んだr-mSシリーズのシステイン結合をプロテオーム規模でマッピングし、新規の結合部位を同定。
  • 金属種、アレーン置換基、分子全体の立体構造が組み合わさってシステイン反応性と標的選択性を決定づけることを示した。
  • リード化合物r-mS-2はメチル基転移酵素PRMT1のSAM結合ドメイン内の機能上重要なシステインに結合し、インタクトタンパク質LC-MSでこれを確認。
  • この結合がPRMT1活性を機能的に阻害することを実証し、共有結合ヒットを検証済み標的の機能調節に直結させた。
  • 次世代メタロドラッグの合理的設計に向けた、汎用的な標的探索プラットフォームとして位置づけられる。
💡 ポイント

SAM結合ポケット内のシステインを直接叩いている点が、今回いちばん信頼できるところだ——活性測定だけでなく、インタクトタンパク質LC-MSで占有を確認しているのは妥当な基準だと思う。慎重になりたいのは選択性の方で、金属種とアレーン置換基で反応性を調整できるのは面白いレバーだが、ヨードアセトアミド/クロロアセトアミド系のフラグメントライブラリがすでに抱えている変数にもう一つ加わる話で、ライセート内スクリーニングだけでは細胞内でのオフターゲットCys負荷は見えてこない。化学的には、我々の多くにとって本当に不慣れな領域だ——配位子交換、酸化還元不安定性、バッチ間再現性は、有機ワーヘッドにはない負債になる。既存のシステイン標的ケモプロテオミクス基盤と比べると、r-mSは興味深い第三の調整軸を加えるものであって、まだ明確な優位性とは言えない。金属薬剤全般としても、有機低分子と比べたこの扱いにくさは変わらず——注目には値するが、まだ手を伸ばす段階ではない。

Proteome-Wide Target Identification Using Reactive Metallo-Scaffolds (r-mS): A Platform for Metallodrug Discovery ↗

ティデグルシブ、新規共有結合機構によりNatAアセチル基転移酵素の初のケミカルプローブとして同定

  • NatA(Nα末端アセチル基転移酵素A)は真核生物のNα-アセチル化の大部分を触媒し、タンパク質の安定性・局在・機能に重要な翻訳共役修飾だが、これまで検証されたNatA用低分子プローブは報告されていなかった。
  • 社内約700化合物ライブラリのスクリーニングとチアジアゾリジンジオン骨格の構造最適化により、臨床段階のGSK-3β阻害剤であるティデグルシブ(YD3139)がヒットとして同定され、既知薬剤がNatAへ転用された。
  • 機構解析により、ティデグルシブはまずNatAにアロステリックに結合し、その後触媒反応で遊離したCoAが化合物を化学修飾して可逆的な共有結合付加物を形成するという、これまで報告されていない触媒依存的阻害機構であることが示された。
  • 本化合物は酵母およびヒトNatAに対して低マイクロモル濃度の活性を示し、他のNATファミリーに対する良好な選択性を有していた。酵母細胞内プロテオミクスによりオンターゲット活性が確認され、機構的ケミカルプローブとして検証された。
💡 ポイント

特筆すべきはその機構だ。酵素自身の触媒サイクルがCoAを放出するまで非共有結合のまま待つアロステリック結合剤——単なる新しい反応性基ではなく、本当に新しい仕掛けだ。NatA特有のCoA放出化学を超えて一般化できるかは不明だが、他のCoA依存性・コファクター依存性酵素へのテンプレートとして記憶しておく価値がある。保存された活性部位を持つにもかかわらず他のNATファミリーに対して選択性が良いという点は、もっと実用的な教訓だ。触媒ポケットを避けてアロステリック部位を狙えば、保存性の問題を回避できる。プローブ探索としては、tideglusibの転用はデノボ合成より速いが、既存のGSK-3βデータセットすべてが交絡することも意味する——新しい化学構造なしにtideglusibの表現型からNatA生物学を読み取るべきではない。NatA自体は正当で未開拓の標的に見える。これはプローブ論文であり薬剤論文ではないが、正しい第一歩だ。

Tideglusib as a First-in-Class Chemical Probe for NatA: Identification, Mechanism, and Cellular Validation of an Allosteric, CoA-Dependent Inhibitor ↗

共有結合性分子グルーがKalirin-Rac1複合体を固定化しGTPase活性化を阻止

  • 研究チームはXChemによる結晶構造ベースのフラグメントスクリーニングとin silicoスクリーニングを組み合わせ、得られたフラグメントヒットを統合してKalirin-Rac1 GEF-GTPase複合体を標的とする共有結合性リード化合物を創出した。
  • これらの共有結合化合物は、Rac1のヌクレオチド結合部位でGTP/GDPと直接競合する代わりに分子グルーとして働き、KalirinとRac1を不活性な三者複合体として固定し、ヌクレオチド交換を阻害する。
  • 得られた2つの阻害剤RS-009とMC-278は、ヌクレオチドとの部分的な競合と非生産的複合体の安定化という二重の作用によってKalirinのGEF活性を低下させる。
  • 生化学的選択性パネルおよび細胞内での活性基盤プロテオミクス(ABPP)解析により、これらの化合物が無差別に作用するのではなく、異なるGEF-GTPaseペアを識別できることが示された。
  • 著者らはこの複合体安定化戦略を、GTPaseを直接阻害するアプローチに代わる、より優れた時空間制御を実現しうる手法と位置づけ、RS-009とMC-278をケミカルプローブ候補として提案している。
💡 ポイント

ヌクレオチドポケットを奪い合うのではなく、非生産的なKalirin-Rac1複合体を固定するというアプローチのほうが賢い——GTP/GDPの親和性はサブナノモル級で、NSC23766のようなRac1ヌクレオチドポケット標的ツールはこれまでクリーンに機能したことがない。SOS1-KRASの戦略をRho生物学に応用した格好で、目新しくはないが借用する価値のある発想だ。 GEF-GTPaseペア間の選択性は負担ではなく本当のご褒美——Rhoファミリーの相同性は厳しいので、活性部位の化学で識別しようとするより、複合体界面主導の選択性ハンドルの方が有利だ。 気になるのは、XChemのフラグメントヒットを共有結合リードへマージするステップ——フラグメントマージの脱落率は高いので、RS-009とMC-278という2つの検証済み化合物が出てきたのは決して当然の結果ではない。GEF-GTPaseパネルだけでなく、ウォーヘッドの反応速度と全プロテオームABPPを見るまでは「クリーンなプローブ」とは呼びたくない。

Discovery of a molecular glue inhibitor that stabilises a non-productive Kalirin-Rac1 complex ↗

共有結合型化合物RVJB59、がん関連p53変異体R280KとR273Hを安定化

  • p53はがんで最も高頻度に機能を失う腫瘍抑制因子であり、R280KやR273Hのようなホットスポット変異はDNA結合ドメインの折り畳み構造を不安定化させるため、変異型p53の再活性化は長年「創薬困難」とされてきた標的分野である。
  • 本研究は、トリプトファノール由来オキサゾロイソインドリノン系の低分子化合物RVJB59について述べており、単なる可逆的結合ではなく変異型p53タンパク質へ共有結合的に作用するよう設計されている。
  • この化合物系列について報告されている熱安定性(サーマルシフト)試験では、変異型p53のDNA結合ドメインの融解温度上昇が示されており、野生型に近い折り畳み構造への部分的な復帰と一致する。
  • 共有結合による標的化と熱安定化を組み合わせたこのアプローチは、R280KおよびR273H変異により駆動されるがんにおいてp53の腫瘍抑制機能を回復させる「変異体再活性化」戦略を支持するものである。
💡 ポイント

変異型p53の再活性化は、腫瘍領域の医薬化学者なら誰もが成果を出したいと願う標的クラスだ——p53変異の大半は明確にドラッガブルなポケットを持つ機能獲得型ではなく、フォールドを不安定化させる機能喪失型であり、だからこそ「部位を塞ぐ」より「フォールドを直す」発想が効く。RVJB59のアプローチ——R280KとR273HのDNA結合ドメインへの共有結合的な作用と、実測された熱安定化の組み合わせ——は機構的に筋が良い読み筋だ。反応性残基を固定し、フォールディング平衡を野生型様のコンフォメーションへ押し戻す狙いである。共有結合化学に関わる者としてまず気になるのは、どの残基を狙い、どんなウォーヘッドを使い、プロテオーム全体での選択性はどれほどクリーンかという点——サーマルシフトのデータだけではそこは判断できない。R175Hに対する可逆的ポケット結合型化合物(PC14586/rezatapopt)との比較も見ておきたい。標的変異も化学タイプも違うが、根底にある賭けは同じだ。これは臨床に近いものではなく、堅実なヒット・トゥ・リード段階のケミカルバイオロジーとして読むべき成果だ。

Covalent Targeting and Thermostabilization of Oncogenic R280K and R273H Mutants p53 by Small Molecule RVJB59 ↗